寺田本家  千葉県香取郡神崎町
  

 
1月26日、美味しいお酒を造ることに労を惜しまない こだわりの自然酒「五人娘」を醸造する千葉県は香取郡にある寺田本家さんにお邪魔してきました。

2000年最初の蔵元訪問は、自然酒 「五人娘」を醸造する寺田本家さんです。

以前よりお伺いしたかった蔵元の一つであり、何度か蔵元にはお会いしてはいるものの後回しとなってしまいましたが、今回ようやく実現しました。前日は、子供の頃の遠足のような気分を何十年かぶりに味わいました。 東名→首都高→ 東関東道をオンボロのランクル60(愛車)で約2時間半の距離です。
   
 

< 現当主は23代目 >


 寺田本家の蔵元、寺田啓佐(けいすけ)さんは歴代23代目当主です。
創業1673年、今年で327年目を迎えました。


 先代より受け継いだ当初は、製品のほとんどを三醸酒と桶売り(大手メーカーにタンクごと販売する)で占めていました。


年々、蔵の経営状況が悪化する中、居酒屋やそば屋を始めたりもしましたが、思うようにいかず、多大なストレスと体調不良から病に伏してしまいました。
 
< 蔵の再建に懸ける >

 入院後、病との戦いの末、完治はしましたが、そんな中「病院はおかしい!」「薬屋は違う!」と思うようになり始めたそうです。病気だけを見て、病人を診ない。根本的な治療をせず、目の前の症状ばかりを追い求める対症療法にとらわれた現代西洋医学に疑問を持ちました。


一時は、廃業も考えたそうですが、酒蔵の経営者として、「酒は百薬の長」であるという昔からの格言に沿った酒造り、偉大なる自然の力を利用した酒造りを全うしようと決心し、どうせ倒産するなら思い切って、酒米を全量、無農薬有機米を使った、昔ながらの山廃仕込みをしようと、新たに決意したのが今から16年前のことです。
< 電子と炭の威力 >

 全量無農薬米を使うのは良いけれど当時、手に入れることさえ難しかったと言います。東北のある農家で栽培している話を聞きつけ早速行ってみると、新しい発見がたくさんありました。慣行栽培(農薬、化学肥料使用)の米は10年経つと溶けてしまうそうですが、そうでない伝統的な農法によるものは、蒔けば芽を出し再び実を付けます。これが、本来持つ生命力の違いです。電子を使った農法を知り研究しました。電子と炭の関わり合いも研究しました。

 
その炭の効果とは。。。

 中国の湖南省で約二千年前の遺体が古墳から見つかった。その遺体は死後4日位の状態だった。何故、それだけの時間が経過しているにもかかわらず遺体の損傷が少ない状態で保管されていたかというと、その棺の周りを5トンもの炭で覆っていたそうです。実際に中国まで見に行かれたそうですが、その遺体は現在、ホルマリン漬けになっています。また、近くの香取神宮の社をどかしたら、大量の炭が出てきた、という事実もあります。昔からある神社仏閣がシロアリで倒れたという話は聞いたことがないように、酸化を防ぐ抗酸化作用がある上、磁場調整、調湿作用があり、マイナスイオンを発生させ穏やかな場、あるいは空間を形成するといった不思議な力がある事が過去の歴史を紐解くと実証されています。


 炭には驚くべきパワーが秘められているのです。これも酒造りに取り込みました。蔵の敷地内に20トンもの備長炭を埋め込み、電子技法を取り入れた仕込み水を、備長炭で濾過しています。また、酒米を蒸す「甑(こしき)」の中にも備長炭を敷き詰めています。これは、お米に備長炭を入れて炊くと美味しいご飯になる理屈と一緒です。麹を育てる麹室(こうじむろ)の壁一面に、そして、熟成用の大型冷蔵庫にも大量に敷き詰めてあります。
 
 
酒米に電子を通し、下には備長炭を置いてある       酒米を蒸す釜場。、和釜と甑(こしき)という
      昔ながらの酒造設備。
      甑の下にも、備長炭を敷き詰め米を蒸し上げる。
  
麹室(こうじむろ)と呼ばれる部屋。

杉板の壁の内側にも、炭を埋め込んであるためか、一造りの終わりにさしかかっても室が疲れることはないと小田島杜氏は言います。


麹室を二階に設けるとこるが多い理由は、乾湿の差を取りやすい為だそうですが、ここでは、一階に室があります。


乾湿差も十分とれ、強い麹を造ります。
  
< 山廃造りにこだわる >

 生命体(生き物)が必要とするもの、それは、「すみか」と「エサ」言い換えれば「環境」と「食」であるという原則です。酒造りには全ての工程でこの原則が当てはまります。麹菌と酵母菌という微生物に頼る酒造りでは、この微生物たちにいい仕事をしてもらうために様々な努力が必要です。


 自然の力を巧みに取り入れた酵母菌の培養方法が山廃仕込みです。山廃仕込みは、酒母と呼ばれる酵母菌の培養液を育てる時に、出来るだけ自然に近い状態を造ります。酵母菌の活動を妨げるような空気中の微生物も混入してきますが、それを妨げる役割をするものが形成されてきます。これが乳酸菌です。この天然の乳酸菌集団を造り上げるために約1ヶ月程かかります。現在では、この乳酸菌を時間をかけて育てるのではなく、合成の乳酸菌を添加する速醸法が主流となっています。


山廃の場合は、体内の微生物同士の戦いによって自然と抗体を造り上げていく方法といっても良いかもしれません。
また、微生物のうんち、おしっこ、等の分泌物や死骸等がその酵素により抗酸化物質を産み出します。

人間の体内における数多くの微生物の共生の場と同じように、極めて微妙なバランスが保たれています。

こうした方法により丈夫で健康的かつ生命力旺盛な酵母菌が育ち、アルコール発酵という仕事を全うしてくれるのです。
 
 
これが、山廃もと。銀色の小さなタンクには氷が
入っています。冷やしたり、暖めたりしながら温
度管理をして、強い酵母菌を育てます。
ここは、酒母室。もと場ともいいます。約1ヶ月ほど時間をかけて仕込みます。それぞれの酒母タンクは左から27日目、28日目、29日目、30日目でした。
 
これが、もろみ。活発に発酵しています。上から垂れ下がっている金属製の棒が回転し泡が吹きこぼれないようにする、「泡消し機」。昔は蔵人が昼夜を問わず、竹の先を割って作ったもので泡消しをしていました。
 
 

 <醸造のお手伝い>

 当日のお昼時に寺田本家さんで手作りの昼食をご馳走になりました。泡汁と2種類の甘酒の美味しさに感動しました。

泡汁とは、発酵途中のもろみの泡をみそ汁に溶いただけのものですが、粕汁に比べてとても上品な味わいです。粕汁の苦手な方でも美味しく頂ける逸品です。後で聞いてみると味噌も自家醸造とのこと、やはり手造りのものとは何故か美味しいものです。

2種類の甘酒の1つは、昔どこの農家でも造っていたアルコール入り乳酸飲料。もう1つは本物の甘酒に空気中の天然酵母菌が混入し変化したもの。すなわち、どぶろくと、甘酒がどぶろくに変わったものです。
 

 
寺田本家さんでは、この様な生活に根付いた発酵醸造文化を広めるお手伝いをしていただけるとの力強いお言葉を頂きました。当店が以前より声を大にして謳っている調味料は調身糧というコンセプトにぴったりで嬉しく思いました。

<心身>を<調える><糧となる>という重要な役割とともに、家庭の台所の豊かさを取り戻して欲しい、そして台所が、
仕込み、貯蔵の「蔵」となり微生物との共生の場であって欲しいという願いが現実的になったのです。




左から 寺田社長  奥様   当店主   小田島杜氏
 
    
天高くそびえる煉瓦造りの煙突 一冬休み無しで働く蔵人は、気骨な精神と
体力の持ち主。
 
文化財指定にもされている煉瓦蔵 たくさんのタンクにもろみが仕込まれ、辺り一面良い香りがします。順番にしぼられ、自然酒 五人娘の原酒が誕生します。

  

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