福島県会津若松市
 
  

薪を熱源にベルト駆動で動く伝統的な菜種や胡麻を炒る機械

 
3月15日、宮泉銘醸から車で5分ほどの距離にあります。菜種油、胡麻油を伝統的な方法で生産する油屋さんです。現当主は6代目。江戸時代より会津で商いをしていましたが当時は、絹織物問屋や雑穀の販売をしていたそうです。

会長の平出吉三郎氏

穏やかな語り口で、歴史をひもとくように優しく語ってくれました。現在は一線を退かれ社長の祐一氏が蔵を動かしています。

 



菜種油は明治時代から、胡麻油は戦後から搾り始めました。当時、会津には68件あった製油業が現在はここを含め2件となってしまいました。



 現在、食用油として流通しているものは、酸化防止剤等の添加物を使い、化学処理を施したものが大半を占めています。「出来るだけ自然に、そして香りが良く美味しい油を」という信念の元、現在ではほとんど見られなくなった玉締め圧搾法を用い風味豊かな油をしぼっています。

砕いた原料をこの木桶に入れて蒸し上げます。
 


一般の製油法 (酸化防止剤添加 化学処理)


乾燥→粉砕・圧偏→抽出→脱ガム・脱酸・脱色・脱臭→冷却→食用油
      
   ↓ (  化 学 処 理  )
         油粕




玉締め圧搾法 (搾ったままの無添加) 平出油屋の製法


乾燥(薪焙炒)→除塵→圧偏(粉砕)→蒸熱(蒸煮)→息抜き→圧搾(玉搾り)
                             

                             油粕

→原油→濾過→食用油
             油粕は有機肥料として畑に還元されます


玉締め圧搾法は最初は石臼の重みだけでゆっくり搾り、徐々に圧をかけていきます。

昔と同じように今でも人毛マットを使います。これは、人間の髪の毛を使い、直径5ミリから10ミリ程の糸を造り、それを縦横に編み込んだものです。現在では、カツラ屋さんに作ってもらっているそうですが、髪の毛の確保も大変です。

要するに、化学合成薬品等の無いものを選ばなければならないからです。


 この人毛マットの間からにじみ出る油の精製方法は、自然分離という最も贅沢な方法で行われています。

手漉き和紙を筒状に使い、ゆっくりと時間をかけて水分やごみの除去、脱臭、遊離脂肪酸の分離(すなわち脱酸 等)を行います。こうして精製した後、おり下げを行い瓶詰めとなります。
 
 
上の写真で平出専務の持っている筒状にした手漉き和紙をこの格子状の箱に入れてゆっくり濾過をします。
 
原料の菜種は、青森産、秋田産の遺伝子組み替えのない無(低)農薬有機農法産を使用しています。以前はほとんど地元で調達していたものですが、時代の変化により一時は全量他県からの買い付けでした。しかし、5年ほど前から地元の休耕田を利用し菜種栽培が始まり、現在では原料の4割を地元会津産(塩川町・磐梯町)でまかなっています。
 胡麻は、中国産の白胡麻を使用しています。遺伝子組み替えのない無(低)農薬有機農法産です。 
原料の菜種や胡麻はこの土蔵で貯蔵管理されています。
 
昔から玉締め機3機で仕事人2人と言われています。本当に小さな規模で家業経営をしてきました。此処、平出油屋さんも現在3機の玉締め機で製造しています。

菜種や胡麻を炒る機械は、昔ながらのベルト駆動で、熱源は薪です。一度に炒ることの出来る量は約50Kgで、完成品はその時の原料にもよりますが、約8升5合(15.3L)から約1斗(18L)とわずかな量です。

見るからに大量生産できない製造現場を見ると、油1滴の重みがひしひしと伝わってきます。
 
小さなステンレスタンクに集められた精製後の油はここで手詰めされます
 
油の単位は容量でなく重量です。1升瓶に詰める場合、1650gが基本となりますが、見た目が少ないので若干多めに詰めているとのこと。

その為、夏場には瓶内の空気が膨張し栓から油がにじみ出てラベルを汚す場合があります。これも、平出さんのサービス精神からきたものと理解してお客様に説明してご理解を頂いております。
 
平出油屋さんを後にして、
       磐越道を郡山に向かう途中、ふと思ったこととは。。。
 
世間が無添加だと声を大にして叫び、言葉だけが一人歩きしている現在。
何代にもわたり当たり前のものをごく自然に当時の製法で作り続けている者に対して、「無添加」という一言で差別化できてしまうほど、この国の食品は落ちぶれてしまったのかと憂鬱な気持ちになってしまいます。

企業規模が大きくなるにつれて失われてゆくこの国の伝統や文化はどうなるのだろう。伝統や文化は時代とともに変わるものだけど、日本人として失ってはならない大切な何かがあるはずです。

先行き不安な日本経済を考えると、企業規模を拡大するには難しい。では、どうするか、

伝統の火を消さないためにたくさんの後継者を育てるしか道はありません。しかし、以前と違い、現在は自らが門をたたきその道に入る若者が増えてきました。

バブル経済を造り上げた大人達への逆襲が若者の力によって静かに始まっています。
 

  

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